試される100円
今日は思ったより仕事が早く終わり、少し時間に余裕ができた。
車の外気温計を見ると28度。天気も良く、直射日光が刺さるように降り注いでいる。
こんな日は、なぜか呼ばれている気がする。
そう、行きつけの銭湯に。
開店して間もない時間だったため、いるのは近所の常連らしき年配の方が数名だけ。サウナも露天風呂も空いていて、とても使いやすい。
大好きなサウナに入り、汗だくになる。
そのあと水風呂に入り、開いた毛穴をキュッと締める。そして外気浴をしながら、そのまま日焼けをする。
これが最高なのだ。
最近はよく、
「黒くなったね」
「海にでも行ったの?」
と聞かれる。
ユーモアのある仲間からは、僕の体型も含めてなのか、
「黒糖まんじゅう」
と呼ばれたこともある。
そんな銭湯での出来事である。
入口で靴を脱ぎ、100円玉が戻ってくるタイプの靴箱へ入れる。
僕は目の前にあった123番の靴箱を使うことにした。
すると、一段上の122番のコイン投入口に、100円玉が残っていることに気づいた。
誰かが取り忘れたのだろう。
僕は無意識に、ちらっと受付の方を見る。
カウンターのお兄ちゃんはこちらを見ていない。
その瞬間、いろいろなことが頭をよぎった。
この100円を取ってポケットに入れた瞬間、もしお兄ちゃんがこちらを見たらどうなるのか。
たった100円のために、
「あの人、忘れ物の100円を持っていったな」
と思われるのは、あまりにも気まずい。
かといって、たった100円玉をわざわざ、
「忘れ物です」
と届けるのも、少し大げさな気がする。
しかし、このまま置いておけば、次に来た人が、
「ラッキー」
と持っていってしまうかもしれない。
それだけは、なぜか阻止したくなった。
結局、僕はその100円玉をカウンターへ持っていった。
「この100円、靴箱に忘れられていました」
そして、お兄ちゃんに先ほど頭の中で起きていた葛藤を話した。
「ポケットに入れた瞬間を見られたら、たった100円で気まずい思いをするじゃないですか。でも100円をわざわざ届けるのもどうなのかなと思って」
そんな話を笑いながらして、僕は浴場へ向かった。
しかし、神様からの「100円テスト」は、これで終わりではなかった。
脱衣所のロッカーも、同じく100円玉が戻ってくるタイプだった。
着替えを入れようとすると、なんと隣のロッカーのコイン投入口にも100円玉が残っている。
また100円である。
しかも、それだけではない。
その一つ下のロッカーにも、もう一枚ある。
この短時間で、合計3枚目だ。
僕の背中側には、風呂上がりにベンチへ座り、扇風機の風に当たっているおじいさんが一人。
その横には、身体を拭きながら着替えている人が一人いた。
隣のロッカーは扉が半開きになっており、中には衣類が入っている。
これはおそらく、横で着替えている人が使っているロッカーだろう。
ところが、その一つ下のロッカーにも100円玉が残っている。
こちらの扉はピタリと閉じているため、中に衣類が入っているのかは分からない。
もし扇風機の前にいるおじいさんが、このロッカーを使っていたとしたらどうなるだろう。
僕が100円玉に手を伸ばした瞬間、
「おい、それ俺の100円だぞ」
となれば、今度こそ完全に泥棒扱いである。
しかも脱衣所なので、先ほどのようにカウンターのお兄ちゃんへ事情を説明しに行くわけにもいかない。
これは触らない方がいい。
そう判断し、脱衣所の2枚については、そのままにしておくことにした。
それにしても、これほど短い時間に、3つのロッカーで3枚もの100円玉を見つけることがあるだろうか。
今日はついているのか。
それとも、正直者かどうかを神様に試されているのか。
脱衣所の100円玉には、周りに人がいたため触れなかった。
しかし最初の靴箱で見つけた100円玉は、きちんと受付へ届けた。
あの100円についてだけは、きっと神様も評価してくれているはずだ。
ただし、100円しか届けていないので、御利益もおそらく100円分だろう。